■優秀ファシリティマネジメント賞 受賞は、5件である。
最優秀ファシリティマネジメント賞(鵜澤賞): 岩手県紫波町
(未利用公有地における官民複合開発 −オガールプロジェクト−)
公民連携による地方創生の好事例。オガールプロジェクト(紫波中央駅前都市整備事業)は、紫波町公民連携基本計画(平成21年2月策定)に基づき、新駅前の10.7haの町有地を有効活用し、財政負担を最小限に抑えながら公共施設を整備するとともに、民間施設も立地させて複合的経済開発を行なうことを目的とした。4か所に分散していた役場を集約した新庁舎はPFIで整備、オガールプラザなど公民連携による施設は多くの来館者を得て経営的にも成功しており、公共FMの一つのモデルといえる。この開発は、今後の公共施設のあり方を示すものとして極めて高く評価された。
(注:オガールとは、「育つ」を意味する紫波の方言「おがる」+フランス語の「駅」を意味する「Gare」から取った造語)
優秀ファシリティマネジメント賞: 株式会社みずほ銀行
(FMコストの見える化とプロセス再構築への取組み)
ERP活用により企業会計と施設管理を一体化した、FM業務再構築活動。ブラックボックス化され一般には不透明な部分の多い銀行業界にあって、ユーザー部門を含めた管理データの透明性=「見せる化」を図ることができている点が高く評価された。FMデータの構築と活用が中心ではあるが、保守的な銀行業におけるFMの好事例といえる。
(注:ERP(Enterprise Resource Planning) とは、企業の持つ様々な資源を統合的に管理・配分し、業務の効率化や経営の全体最適を目指す手法。また、そのために導入・利用される統合型(業務横断型)業務ソフトウェアパッケージ)
優秀ファシリティマネジメント賞: 学校法人鈴鹿医療科学大学
(ストック建築の最大活用・教育改革への対応とFM業務の実践)
廃止となった旧NTT鈴鹿研修センターの施設群をリニューアルし(2007〜14年)、医療系4年制大学施設として活用している事例。旧施設は、必要に応じ財務状況と照らして、順次改修がされており、1棟は新築されている。2014年の段階では2学部4学科(2008年開設時は1学部1学科)が活用している。施設の改修と施設管理(運営維持)はFM専門企業が担当しており、既存施設の有効利用が計画・運営維持の段階を通して機能している。ストック活用の好事例として高く評価された。
優秀ファシリティマネジメント賞: 社会医療法人真美会中野こども病院
(医療に育児支援の視点を加えた病院ポリシーを具現化するFM実践)
わが国初の民間小児科専門病院の、建替を契機としたFM導入事例。本館の新棟完成が2015年7月であり、具体的にはスタートしたばかりといえる。T-PALET(JFMA賞技術賞受賞)を用いたブリーフィングが建築計画に活用されている。FM推進体制としては、理事長・院長がリーダーシップを持ち、進めている。住宅地での立地なので、近隣への配慮が十分されている。医療機関との連携も図られ、今後の10年を見通した小児内科中心の医療ビジョンと施設づくりがマッチした点も含め、高く評価された。
優秀ファシリティマネジメント賞: カルビー株式会社
(イノベーションを生み出す新しいワークスタイルを目指して)
ペーパーレス化、フリーアドレス、アクティビティセッティングのワークプレイスを5年間運営維持している。オフィスは知恵を出す場など、経営者のワークプレイスに対するビジョンが明確で、それを実践する現場の業務も活用されている。本社オフィスの改革として、統合化、従業員の意識改革、ワークプレイスによるコミュニケーションの活性化など、継続的に取り組まれている。フリーアドレスの失敗を活かした施策などPDCAを回して継続的改善があり、支店での横展開もされつつある。2009年新会長、新社長のもとで経営体制を刷新して以降6期連続の増収増益を達成していることも、高く評価された。
■技術賞 受賞は、1件である。
技術賞: 株式会社安井建築設計事務所、熊本大学大西研究室、綜合警備保障株式会社、ALSOKビルサービス株式会社、加賀電子株式会社
(BIMを活用した施設維持管理システムの開発とその運用)
これからの建築・FMの分野で幅広く展開されるであろうBIMを拡大して、BIM-FMのシステム開発を行ったソフトウェア技術に関する応募。今回の応募技術は、それを建物の運営維持段階で活用できるよう、建物点検・管理情報を加えて、設計・施工時だけでなく、竣工後のFMでも活用できるようなシステムを開発し、実用化しているもの。ただし、実践事例は1件しかなく、ユーザーインターフェイスの改良などバージョンアップも予定されている。当技術の広範な普及はこれからという段階であるが、継続性がある程度担保されていると判断され、高く評価された。
(注:BIMはコンピュータ上に構築される仮想の建築物(3次元モデル)として、建物の一般情報、図面、材質、設備機器などがすべて入力されたデータベース)
■功績賞 受賞は、次の2件である。
功績賞: 松村 秀一 氏(東京大学 教授)
(「建築− 新しい仕事のかたち」−箱の産業から場の産業へ−(著作))
著者の基本的視点は、「これからの新たな産業のあり方として、各地に余るほどに存在する既存建物(箱)を、人々の豊かな生活の場に仕立て上げることにこそ重点を置くべき」というもので、まさにFMの視点を補強するものといえる。FMの産業化を考えるうえでも参考になる著作として、高く評価された。
功績賞: 武内 正巳 氏(記者)
(新聞報道等を通じた道内をはじめとするFM普及への多大なる貢献)
北海道建設新聞を中心に、主にメディアを通じてFMの普及に約22年間取り組んできた個人の業績。記者として、22年間変わらずFM担当を続けてきており、メディアを通じたFMの普及活動支援の実績は十分過ぎるほどある。一般社団法人北海道ファシリティマネジメント協会での活動支援や毎年の「JFMA FORUM」取材記事掲載、地方自治体のヒアリングなど、北海道におけるFMの普及に大きく貢献したとして、高く評価された。
■奨励賞 受賞は、以下の5件である。
奨励賞: 株式会社山口油屋福太郎
(廃校となった校舎を活用した食品工場)
廃校になった小学校の土地・建物を民間企業が譲渡を受け、工場に用途変更して活用を続けている事例。建物をそのまま活用して内部を改修している点や、小学校の記憶を残す努力をしている点などが評価できる。実績としては2年弱しかないが、地方特産のじゃがいもデンプンの調達と加工食品の生産、近隣住民の従業員採用など、民活による地方起しの好例といえる。同社は、九州でも同様に学校施設を活用している。廃止になった施設の活用では、官→民の事例として好例といえる。
奨励賞: ソシエテジェネラルグループ
(東京オフィス移転に掛かる戦略的FMの実践)
外資系金融機関グループのオフィス統合化を含むワークプレイス改革の事例。移転完了が2015年6月で、運営維持での実績はこれから積み上げる必要がある。東日本大震災以降のBCP対策、日本でのプレゼンスを高め、顧客重視を謳うブランディング戦略の実践、総務業務の戦略的アウトソーシング、金融機関の制限にもかかわらず精一杯のオープンオフィス化、カフェなどの従業員満足向上といった諸々の長所が優れたFM実践の可能性を示唆している。経営ビジョンと施設づくりが一致しており、従業員の意欲・一体感の向上につながっている点も、評価された。
奨励賞: テンプホールディングス株式会社
(グループ経営における戦略的FM機能導入事例)
先に優秀FM賞を受賞したインテリジェンスが、テンプスタッフに合併され、新たにテンプホールディング(THD)の体制下でグループのFMに取り組んでいる活動。THDのグループFM部は、設立後1年半ほどの状況で、グループのガバナンス再構築(中期経営計画)の途上にあるので、もう少し推移を見守りたい。グループ各社へのファシリティコスト課金体制など、日本企業としてユニークである。実績の推移、グループ各社の再編成を待つ時期といえるが、改革に意欲的なファシリティマネジャーの活動が評価された。
奨励賞: ノバルティスホールディングジャパン株式会社
(東京拠点の統合におけるワークスタイル改革とFMの取り組み)
製薬会社グループ3社のオフィス統合化を活用して、ワークプレイス改革、ワークスタイル改革、グループ間コミュニケーションの改革に取り組んだ事例。成長戦略の根幹となる人づくりの場整備というビジョンが明確で、ブランディングも重視されている。ワークプレイスの構築はオーソドックスなFMの技術を活用したもので、堅実に処理されている。2015年2月移転で、新しく整備されたグローバルな管理体制も推移を見る必要があるが、営業所のワークプレイス改革など次のステップに取り組んでおり、今後の発展に期待したい。
奨励賞: 岡山県倉敷市
(Kurashiki流FM −継続から広域へ−)
倉敷市と岡山県内の自治体を巻き込んだFMへの取り組み。FM推進の基本方針、計画がまとまっていないが、固定資産台帳と施設白書が完成して、運用・更新されている。倉敷市の「公共施設等総合管理計画」は本年度末で完成の予定。保全の予算も2年前より統括的に一元化されているが、学校施設と公営住宅が個別管理になっており、今後の全体最適化をめざした一元化の拡充・統括体制整備が望まれる。官官連携、広域連携のFMは、時代に即した先進的な取り組みといえる。倉敷市自体のFMの統括マネジメント体制整備、全体最適の方針と計画など、今後のFMの進展を期待したい。
(参 考)
1.日本ファシリティマネジメント大賞の概要
1)目 的:
FMに関する優れた業績等を表彰することにより、日本国内におけるFMの普及・発展に資することを目的とする。
2)表彰の種類:
(1)優秀ファシリティマネジメント賞(FMの手法を取入れ、優れた成果を上げている活動)。
このうち、特に優れた活動を「最優秀ファシリティマネジメント賞(鵜澤賞)」とする。該当なしの場合もある。【公募】
(2)技術賞(FMに関する、新しい手法・技術の取組み)【公募】
(3)功績賞(FMに関する優れた論文、出版、その他の活動)【公募】
(4)特別賞(FMの特定分野および海外において優れた成果を上げ、特別に表彰すべきと認められる活動等)【非公募】
(5)奨励賞(優秀ファシリティマネジメント賞、技術賞または功績賞に準じ、今後の発展が期待される活動等)【非公募】
3)募集期間 :
2015年7月1日〜8月31日
4)審査委員会委員(委員以下五十音順、敬称略):
委 員 長 | 沖塩 莊一郎 | (東京理科大学 名誉教授) |
副委員長 | 深尾 精一 | (首都大学東京 名誉教授) |
石福 昭 | (一般社団法人建築設備綜合協会 名誉会長) | |
川元 茂 | (国土交通省大臣官房 官庁営繕部長) | |
北川 正恭 | (早稲田大学 名誉教授) | |
橋 政義 | (経済産業省商務情報政策局 日用品室長) | |
寺山 正一 | (株式会社日経BP 執行役員 建設局長) | |
村田 博文 | (株式会社財界研究所 代表取締役) | |
柳澤 忠 | (名古屋大学・名古屋市立大学 名誉教授) | |
米倉 誠一郎 | (一橋大学イノベーション研究センター 教授) | |
成田 一郎 | (公益社団法人 日本ファシリティマネジメント協会 常務理事) | |
尚、審査委員会の下にFMの実践者から構成された専門委員会を置き、審査委員会の補佐を行う。 |
2.応募状況と選考経緯
1)応募状況: 優秀ファシリティマネジメント賞14件、技術賞2件、功績賞3件 計19件
2)選考経緯:
各専門委員が応募書類を精査し、各応募案件にコメントと評点をつけ、専門委員会で議論修正した「専門委員会検討資料」と「応募書類」により審査委員会で討議し、優秀ファシリティマネジメント賞については11件、技術賞については1件を現地調査・ヒアリング対象に選定した。また、奨励賞は応募案件の中から選定することを決めた。
現地調査・ヒアリングの結果を踏まえ、専門委員会で推薦対象案を作成、審査委員会で報告を行った。審査委員会では、各委員から活発な意見が飛び交い、最終的には全委員一致で各賞候補を決定した。その後その結果をJFMA 山田会長に報告、了承を得て受賞案件を最終決定した。
優秀ファシリティマネジメント賞応募14件のうち5件が優秀ファシリティマネジメント賞受賞、その中の岩手県紫波町は最優秀ファシリティマネジメント賞(鵜澤賞)に選ばれた。また、5件は奨励賞受賞となった。
技術賞応募2件のうち1件が技術賞受賞となった。
功績賞応募3件のうち2件は功績賞受賞となった。
2015年12月21日、JFMA会議室において入賞者発表会を開催。
山田会長 挨拶 |
沖塩委員長 結果発表 |
報道発表の様子 (2015年12月21日(月)13:30〜 JFMAにて実施) |
3.その他のお知らせ
1)日本ファシリティマネジメント大会(JFMA FORUM 2016):2016年2月24日(水)〜 26日(金)
2月25日(木)15:50〜17:40 第10回 日本ファシリティマネジメント大賞 授賞式
2月26日(金)10:30〜17:40 優秀FM賞、技術賞受賞者による事例発表
※パネル資料、講演資料の利用には、閲覧のみ可能のもの、印刷物は内部利用に限るものと、制限を設定しています。複写、印刷物等を対外的にご利用を希望される場合は、JFMAまでご一報ください。
■応募要項 [doc]
昨年までに行われた日本ファシリティマネジメント大賞(JFMA賞)の受賞者の概要は、
以下をご参照ください。
・JFMA賞 受賞事例集(約16MB)
・第1回日本ファシリティマネジメント大賞(JFMA賞)
・第2回日本ファシリティマネジメント大賞(JFMA賞)
・第3回日本ファシリティマネジメント大賞(JFMA賞)
・第4回日本ファシリティマネジメント大賞(JFMA賞)
・第5回日本ファシリティマネジメント大賞(JFMA賞)
・第6回日本ファシリティマネジメント大賞(JFMA賞)
・第7回日本ファシリティマネジメント大賞(JFMA賞)
・第8回日本ファシリティマネジメント大賞(JFMA賞)
・第9回日本ファシリティマネジメント大賞(JFMA賞)