FMの仕事とは

ファシリティマネジメントの領域はとても広く、その対象も拡大しており、認定ファシリティマネジャーが所属している企業や団体の業種や事業、担当業務も多岐にわたります。ファシリティマネジメントを担当業務としておられる皆様に、お仕事やFMへの思いを語っていただきました。
ファシリティマネジメントの仕事とは何か?様々な視点からのFMの多様性や奥深さを感じていただき、皆さんの業務に是非ご活用ください。

■■ファシリティマネジメントの資格〜「認定ファシリティマネジャー資格」■■
FMに携わるすべての方を対象に必要な専門知識・能力について試験を行い、合格者は登録することで「認定ファシリティマネジャー資格」を取得できます。FM関連知識を勉強するにはよい機会となります。
受験については以下のページでもご案内しておりますので、参考にご覧ください。
認定ファシリティマネジャー(CFMJ) 資格 試験案内

※ 以下の内容は、JFMA機関誌「JFMAジャーナル NO.216 2024 AUTUMN」に掲載されている内容から引用しております。JFMAジャーナルは、JFMA会員の皆様に無料で配布しているほか、書籍ページ からもご購入できます。


板谷 萌絵
株式会社 日建設計
FMの知識で実現する日建設計のフロア整備と運営改革
 日建設計では、建築や都市計画の設計業務に加え、プロジェクトマネジメント(PM)、デザインコンサルティング、ファシリティマネジメント(FM)、コーポレートリアルエステート(CRE)にも積極的に取り組んでいます。私は建築意匠を専攻していましたが、入社後はFMやPM、さらには建物の投資運用や管理運営といった分野にも携わることとなり、認定ファシリティマネジャーの資格を取得しました。資格取得を通じて、施設投資評価手法など、学生時代には触れる機会のなかった知識を学び、建築が多岐にわたる広範な分野であることを実感しました。
 弊社では、オフィス空間の活用が重要なトピックの一つとなっており、昨年には大阪オフィス改修プロジェクトが第18回日本FM大賞を受賞し、東京本社には共創空間「PYNT」が誕生しました。しかし、グループ会社の統合に伴うフロア整備や職員増加への対応、エリアごとにばらつきのあるオフィス環境の改善が緊急課題となっています。
 私は東京地区で、FMやPM、オーナーズコンサルティングの視点から、資格取得時に学んだ公式ガイド『ファシリティマネジメント』に基づき、社内の経営戦略室のワークプレイス基本方針の策定を補助しました。また、FMの中長期実行計画提案や要求条件の整理、プロジェクトの進行管理、評価、改善のプロセスも担当し、九段下、飯田橋、竹橋に分散するオフィスフロアの統合と配置を決定するローリング計画やスタッキングの検討を行いました。
 ワークプレイス基本方針の策定に際しては、「共創の場」「働きやすい環境」「カーボンニュートラル」「オフィス運用システム」などの項目ごとにビジョンや条件を整備し、各オフィスの個々の与条件(1人当たりの執務面積、キャビネット数、フリーアドレス席、省エネ目標値、会議予約システムなど)を設定しました。
 また、FMの中長期実行計画やローリングとスタッキングの基本計画では、社員用Wi-Fiに接続されている端末数を基にフロアごとの混雑度を計測し、公平にフロアプランを評価して改善すべきエリアを特定しました。さらに、今後の職員増加を見越して、快適なオフィス環境を維持するために、収容可能人数を超えるタイミングを予測し、中長期実行計画の提案を行いました。スタッキングの際には、デザイン会議に必要な大きな会議テーブルや、個人作業に適した執務席の確保など、部門ごとの特有のニーズを考慮し、社員のワークパフォーマンス向上に寄与する配置を検討しました。
 オフィス改修プロジェクトの進行管理では、統合された部門のフロア改修や執務席増強のためのレイアウト変更、社内禁煙化に伴う元喫煙所の図書ライブラリーへの改修も担当しました。
 弊社はFMやPM、設計、インテリア部門を自社内に擁し、工事以外はほぼインハウスでメンバーを調達しています。そのため、業務上の立場や社内の連絡・承認体制が複雑化し、苦労もありました。しかし、自社のオフィスを対象としたFM事例に関わることで、ファシリティの現状や改修後の結果を肌で感じ取ることができ、大変学びの多いプロジェクトとなりました。

神村 賢一
市原市役所
市役所職員ファシリティマネジャーとしての実践
 私は、1999年から建築技術職員として市原市役所に勤務して26年目。これまでに都市計画、建築指導、中心市街地活性化、建築営繕、市庁舎整備・管理等の業務を経て、現在は建築指導部門で民間住宅等の耐震化促進業務に携わっています。
 私のファシリティマネジメント(FM)との出会いは、2010年、建築営繕部門に配属された頃に遡ります。当時、他自治体の先進的なFMの取り組みを視察して衝撃を受けた上司から、「公共施設の整備と保全を一体的に捉え、施設管理部門に横串を刺して市全体として最適化を図るFMは、今後絶対に必要となるので研究しなさい」と指示を受けたことを機にFMの勉強を開始。勉強する過程で認定ファシリティマネジャー資格を知り、2011年に受験し、資格を取得しました。
 資格取得後、FMの知識や資格を実践的に実務に活かせたのは、2017年度から2022年度まで配属されていた総務部門で携わった市庁舎整備・管理業務です。
 市原市の市庁舎のうち、庁舎としての中心的な機能を担う本庁舎は、1972年築で耐震性能の不足と老朽化が問題となっていたことから、2011年の東日本大震災を機に防災拠点機能のできるだけ早期の強化・確保に向け耐震対策が検討され、喫緊の対策として災害対応機能を中心に本庁舎の約半分の機能を担う免震構造の防災庁舎(現第1庁舎)を市役所敷地内に新築し、既存の本庁舎は高層階を不使用にして低層階に限り第2庁舎として当面の間使用継続することとなりました。
 私が総務部門に配属になった2017年度は、第1庁舎の整備の最終年度であり、私の最初の仕事は、第1庁舎整備の仕上げと供用開始に向けた移転(引越)でした。特に多角的に品質を十分精査しての備品導入や、ユニバーサルデザインを意識した案内サインの整備、引越業者のノウハウを最大限活かし三連休3日間で一気に行った移転(引越)については、まさにFMの実践でした。
 その後、2018年度には第2庁舎の機能を低層階に集約させる移転(引越)を行うとともに、第2庁舎の「当面の利用」後の抜本的な耐震対策(庁舎強靭化対策)の検討をスタートしました。
 庁舎強靭化対策については、まず2018年度から2カ年で第2庁舎の抜本的な耐震対策を「耐震改修」と「建替え」のどちらの方向性で進めるかの検討を行い、イニシャルコストと長期的なランニングコストを踏まえたトータルコストや庁舎としての使い勝手を比較検証した結果、「建替え」の方向性で進めることとなりました。
 そして2020年度から2カ年で第2庁舎の建替えとなる新庁舎整備の基本計画の策定、2021年から2カ年で基本設計を行ったところです。
 これら庁舎強靭化対策の検討は、委託業務として民間企業の支援を得て行いましたが、委託仕様において業務体制に認定ファシリティマネジャーの参画を求め、委託先の民間ファシリティマネジャーとの対話により、FM面からの内容を深めることができました。特に基本計画については、検討期間が新型コロナウイルスの蔓延した時期と重なったことから、アフターコロナの新たな働き方に対応したワークプレイスづくりとして新たな知見を盛り込むことができました。
 また前段までのプロジェクト管理的な庁舎整備の業務と並行して、庁舎の運営維持にも携わってきましたが、特に老朽化による問題が顕在化している第2庁舎の維持管理については、設備等の突発的な不具合や台風等の災害での各部破損との戦いでした。以前から維持管理のための基本的なPDCAサイクルはある程度確立されていましたが、庁舎での業務継続を死守すべくOODAループによる臨機応変な課題対応を求められることが日常茶飯事で、運営維持については本当に鍛えられたなと自負しています。
 以上紹介してきた取り組みは厳しい条件の下で苦しいことが多かったものの、常に夢を持って前向きに明るく楽しく臨んできました。市役所にはこの他にも多様なFMの業務があります。今後も配属される部門によりFMの知識を活かす業務は変わってきますが、さらにポジティブに学びながら取り組んでいきたいと思います。

熊谷 隆之
パナソニックコネクト株式会社
働きたくなる会社をつくる
 パナソニックコネクトはBtoB のお客様に向けて、お客様のビジネスの現場にソリューションで貢献するパナソニックグループの事業会社です。
  当社は2017 年に社外から着任した経営者、樋口泰行のリードで企業改革に取り組み、第一歩としてカルチャー改革を重視して大規模なオフィス改革を行いました。
  当時私は経営企画の立場でプロジェクトに参画し、本社部門を大阪から東京へ移転、島型オフィスをフリーアドレスに一新、役員個室を廃止して社長もオープンスペースに出てきてもらいました。上意下達をやめオープンでスピーディ、フェアなカルチャーを目指したのです。
  職場環境や運用を変えるだけで、会社が大きく変わり、自分自身も会社が楽しくなりました。ファシリティの力を実感する貴重な原体験だったと思います。この取り組みでパナソニックグループとして2018 年JFMA賞奨励賞をいただくこともできました。
  その後、私は縁あってオフィス改革の主幹部署だった総務部に異動になりました。本社・開発拠点・工場など日本の主要9 拠点など国内事業場の運営を行う総務部、その業務改革担当として今から3 年前に着任しました。
  総務は初めての経験で知らない業務ばかり、また以前は拠点ごとに別会社だった経緯もあって同じ業務でも拠点ごとにやり方がバラバラの個別最適の運営で、業務の全体像も見えない状態でした。どこから手をつければいいものか途方に暮れておりました。
  試行錯誤を続ける中、コンサルタントのクレイグカックス氏からJFMA や認定ファシリティマネジャーを紹介され、『公式ガイド ファシリティマネジメント』を手にしました。読み始めると第一章から驚きの連続でした。
  施設や職場環境の価値を高めて、事業の成長や従業員の成功・エンゲージメントの向上につなげられること、戦略的にPDCA サイクルをまわして費用の効率活用することで大きく経営貢献ができることなど、FM の概念とその重要性・ポテンシャルがよく理解できました。業界の地図や羅針盤を手に入れたような感覚で、悩んでいた方向性を見出せて、大いにモチベーションが高まったのを覚えています。共に改革を担当する同僚と励まし合いながら学習を続け、資格も取得できました。
  その後はFM の知見を得て、拠点バラバラの個別最適を全体最適へ向けて見直す改革に取り組んでいます。
  施設管理、ワークプレイスなど機能(ファンクション)ごとに、日本全拠点の横串を刺したプロジェクトチーム「ファンクションチーム」を発足。拠点メンバーの協力を得ながら各ファンクションのあるべき姿を議論して、運営基準の策定、業務プロセスの標準化を進め、業務集約による効率運営を目指して活動を続けています。
  予算の管理も拠点ごとにバラバラでしたが、公式ガイドのファシリティコスト管理体系にのっとって費用管理ができるように仕組みを整えていきました。
  将来はFM 部門としてPDCA をまわせる体制を確立させて、拠点別運営からファンクション別の組織運営への切り替えを目論んでいます。
  またJFMA のセミナーにもたいへんお世話になりました。昨年11 月の初級FM スクールへ部内で参加を募ると、4 割の二十数名が手を挙げて受講、FM の理解を深めてくれました。総務部の認定ファシリティマネジャーは現在5 名、今年も数名挑戦しています。FM のフレームワークを理解し実践できる人を増やして強い組織にしていきたいと考えています。
  2 年前に総務部では「働きたくなる会社をつくる」というミッションを全員で決めました。FM は会社の活気を生み出し、従業員を幸せにできるとても重要でやりがいのある仕事です。業界の知見を活かしてFMを進化させていくことで、ミッションを実現させていきたいと思います。

佐村 航
株式会社NTTファシリティーズ
サステナブルな社会の実現に寄与できる
ファシリティマネジャーをめざして

入社からの経歴
  私が当社に入社した理由は、社名の通り、建物の構築から維持までファシリティに幅広く関わる立場、いわゆるファシリティマネジャーになりたいと思ったからである。
  実際に、入社当初は建築コスト計画・積算や工事監理を行う部署に所属し、グループ会社の保有する多数施設の改修工事を実施する業務に従事した。その後、主に建物の維持保全を担う現在の部署に異動し、点検・保守の統括管理業務やお客様への保全提案業務を担当している。
  このように「建物の構築から維持までファシリティに幅広く関わる」という私の入社理由に即した経歴を歩んでおり、ファシリティマネジャーとしての基本的な知識をまずは取得したいと思っていたため、認定ファシリティマネジャー資格も入社時から試験を受け無事取得できた。
維持保全の立場でのファシリティマネジメント
  現在の維持保全の部署において、管理するお客様の保有施設はバブル期に建設されたオフィス用途の建物が多く、日常的な点検・保守を施しながら建物利用者の事業継続性の確保と建物の長寿命化に努め、経年による劣化に対しては予防保全的観点から中長期修繕計画を立案しオーナー様へ提案することでライフサイクルコストの低減に寄与している。
  以前の部署では主に建物躯体の改修工事を行う業務に従事していたが、現在の部署では建物設備管理を主に担っている。これまで触れることの少なかった建物設備知識が必要とされる場面が多く、刻々と変わる建物設備状況にキャッチアップできるように、実際に現場へ点検同行などしながら日々研鑽している最中である。
  また、中長期修繕計画の立案においては、建物設備管理での日常的な点検・保守結果やトラブル・故障履歴をもとに設備情報を統括し、プロパティマネジャーと予算を含めた協議を実施しながら、5 年ないし10 年の予防保全的な修繕計画をオーナー様へ提案する。資格試験で学んだ計画的保全の考え方や保全項目の重要度分類の考え方は、計画立案のプロセスの中で活かせていると感じている。
ハード面にとどまらないファシリティマネジャーの仕事
  上記のような維持保全(当社では建物維持管理と名付けている)業務をマネジメントしていくうえで、年々深刻化している業務従事者の高齢化・人材不足の課題にも対応していかなければならない。また、若手の人材育成制度の企画立案、ツールを用いた維持管理のDX化、当社が推進しているIWMS(Integrated WorkplaceManagement System)による「エリア巡回型保守サービス」の導入促進など、さまざまな観点から施策を打ち出しながら課題に対応している。こういったヒューマンリソースの課題への対応や、ICT を活用して経営課題を解決する業務も、経営価値向上を支援し知識創造と生産性向上を支援するFM の担う役割の一つであると捉えながら日々従事している。
今後の展望
  以前、ファシリティマネジャー試験合格者の声として寄稿させていただいた際に、「企業のFM 戦略・計画の立案や中長期計画の実行に携わることのできるファシリティマネジャーをめざしたい」と記載したように、目標とする道を着実に進んでいると実感している。価値観の多様化でより正解のない時代へと進んでいる中で、FM の領域はさらに拡大していくことは想像に難くないが、その変化にファシリティマネジャーも臨機応変に対応できるようにしなくてはいけないと考えている。個人的にも、設計・工事監理や維持管理にとどまらず不動産やワークプレイス構築、ひいては経営、財務、人事、ICT と多様な分野を経験し、変化の激しい社会の中でも幅広い知見をもって持続可能社会や循環型社会の実現に寄与できるファシリティマネジャーとして活躍していきたい。